ORIGINS:アジール

bananaband1tによる

平和主義者のジャングラーからガンスリンガーの悪党まで、LoLの136体のチャンピオンにはそれぞれの“始まり”がありました。今回は砂塵の皇帝、アジールの誕生についてお話しします。


水の魂、ウェルのキャラクターモデル

台風とサンドワーム

開発プロセスまで入ることができたチャンピオンのほとんどは、最終的にサモナーズリフトに登場することになりますが…そこには例外もあります。はかなくも消えていった、約束の地にたどり着くことのできなかったチャンピオンたちのデザインやアイデアの多くは、将来のチャンピオン開発に活かされます。「水の魂、ウェル(Well the Hydrosoul)」もそんなチャンピオンの一人でした。

“ウェル”はLoLのベータ期間中に開発された水を使うメイジで、暴風雨や竜巻といった水を操るスキルを持っていました。彼のスキルには大量のパーティクルエフェクトが必要でしたが、当時のLoLの技術ではそれを実現できませんでした。そのようなビジュアルエフェクトの負荷が大きなチャンピオンの開発を続けるわけにはいかなかったため、ウェルは結局お蔵入りとなってしまいました。

しかし数年後に技術が進歩し、ウェルのデザインを活かして新たなチャンピオン、「砂の魔導師、セス(Seth)」が誕生しました。シニア・ゲームデザイナーのColt“Ezreal”Hallamは言います。「セスとウェルは基本的に同じです。使うのは水じゃなくて砂ですけどね」。

セスのアニメーション試作

セスはあらゆる場所を砂漠に変えたいという野心にあふれた男で、シュリーマの領土をそこら中に拡大していました。ゲーム内における彼のスキルは、マップ上に数分間砂を残し、スキルを使用すればするほど多くの砂を発生させるというものです。砂の上に立っている敵にスキルを命中させると、射程が伸びたりノックアップさせるなどの追加効果が発生します。あるバージョンでは、セスは砂漠の仲間も従えていました――恐ろしいサンドワームで、周囲を通る者を散発的に攻撃します。

しかしまもなく、セスの開発は流砂に呑みこまれてしまいます――大量のパーティクルエフェクトをゲームに追加すると、低スペックのコンピューターで処理上の問題が発生しました。これを避けるために、砂がマップ上に残る時間を短縮して、次にパーティクルの数を減らし、さらにもう一度砂の時間を短縮して…そして最終的に、砂が広がるアイデアは廃止されました。「世界中のプレイヤーが遊べるようにするには、このデザインは採用できませんでした」とColtは言います。「今でも残念に思います。かっこいいデザインでしたからね」

開発のある段階では、セスのアルティメットスキルは巨大な砂の手を召喚して敵チャンピオンを挟むというものでした。

砂をまき散らす特権を失い、スキルの中心になっていた砂の拡散メカニズムを失ったことで、セスのスキルは統一感のないただの寄せ集めになってしまいました。ゲームプレイの開発はBrad“CertainlyT”Wenbanの手に移りましたが、彼はすぐに幻滅を感じます。コンセプトアーティストのGem“Lonewingy”Limは言います。「Bradは、『そもそも砂ってのは何だ?炎みたいに燃えるのか?凍らせてスロウを与えるのか?いったいなんだ?』とパニックになって以来、このチャンピオンの開発を嫌がってましたね」

砂の魔導師、セスの開発は暗礁に乗り上げました。


流砂の衝撃

ゲームプレイと同様に、セスのキャラクターデザインも混乱していました。ゲーム内で砂を拡散しなくなったことで、彼の“砂漠を拡大する者”というアイデンティティーはもはや意味を成さないものとなりました。スキルセットの変更にあわせて開発チームが砂の魔導師のキャラクターを再考することになり、彼は王族に格上げされることになりました――セスは遠い昔に存在したシュリーマの皇帝になったのです。この変更によってアーティストとライターは、これまで(シュリーマイベント(英語ページ)の頃まで)欠けていた、その地域の中心となる物語を掘り下げる余地を手にしたのです。

セスは――のちのアジールのことですが――シュリーマが没落する前の、最後の古の皇帝という設定でした。ならば、彼は帝国の没落にどのように関わったのでしょうか?その悪巧みが凋落を引き起こしたのか、それとも酷い過ちを犯しただけの善意の支配者だったのか?後者の方が深みがあり、かつダイナミックなアプローチだと思えたので、Gemはこの方向でアジールをデザインし直すことにしました。

Gemは言います。「明らかにキメラ的なものから人間の形をしたものまで、さまざまなキャラクターを描いてみました」

皇帝の新たなデザインはエジプト神話からインスピレーションを得ています。過去に登場した2体のシュリーマ出身チャンピオンもエジプトの神をもとにモデリングされていたので、そのアプローチがふさわしいと思えました。ナサスは死後の世界を司る神であるアヌビスから、レネクトンは軍事力に関連する神であるワニの頭を持つソベクから着想を得ています。のちにアジールとなるチャンピオンのベースとなったのは太陽神、ラーです。ラーはハヤブサの頭を持つ強力な神であり、よく太陽の円盤とともに描かれていて、それがシュリーマの象徴となりました。

砂の中から隆起したシュリーマ


兵士よ、進め

アジールの物語が一新され、見た目も新しくなったので、次に必要なのはスキルの新たなコンセプトアートです。皇帝という地位にインスピレーションを受けて、Gemはのちにアジール開発の転換点となる絵を描きました――アジールが砂塵兵を召喚する様子です。

アジール コンセプトアート

短時間持続するタワーを召喚するようになる前、アジールは“死の風車”を召喚していました。

その後はすべてが上手く…いえ、上手くいかなかったのです。

当時、兵士を使うスキルは1つだけで、その他には砂の手に加えて、新たにデザインされた死の風車がありました。それは回転して4本の死の光線を発射するタワーを召喚するものでした。Daniel “ZenonTheStoic” Klein――アジールを担当した4人目にして最後のチャンピオンデザイナー――が、Drew Marlowの後任となった時、彼はアジールの現在のスキルセットは使い物にならないとすぐに悟りました。「誰もこのチャンピオンにふさわしいスキルセットを見つけられませんでした。時には、そういうこともあるんです」とDanielは言います。

しかし、チャンピオン開発チームはアジールを砂漠に置き去りにするのではなく、既存のコンセプトアートやゲーム内アセットのキャラクターモデルや砂塵兵(およびそのダッシュアニメーション)、死の風車などを使って彼を作り直してみようと考えました。

開発者たちは小さなチームに分かれ、朝から晩まで3日間にわたり、それぞれがガレキの中から説得力のあるキャラクターを作り上げようと試みました。各チームがデザインを見せ合う段階になった時、全員のデザインに一つだけ共通するものがありました――ゲームプレイにおいてもテーマにおいても、砂塵兵がチャンピオンデザインの中心になっていたのです。「誰もがこのチャンピオンの唯一の個性は砂塵兵だと感じていたんです。ならば、中心に据えるべきは砂塵兵です」とDanielは言います。

そしてついに、「シュリーマの皇帝、アジール」が誕生しました。


余が命ずる!

砂塵兵を中心としたデザインにするため、砂の魔導師のスキルセットは完全に廃止しました。その代わり、彼は召喚したミニオンを操るチャンピオン、すなわち“ミニオンマンサー”になりました(注:ここでの“ミニオン”とはいわゆるレーンのミニオンではなく、“プレイヤーが使用することのできる、チャンピオン以外の存在”を指します)。「この方向転換は怖くもありました。なぜなら、この分野にはまだまだ未解決の領域が多かったからです」とDanielは言います。彼らはハイマーやマルザハール、ザイラのスキルセットに注目して、上手く機能しているものと機能していないものが何なのかを考えました。

自動的に攻撃するミニオン(ハイマーのタワー)はプレイヤーが操作できる部分が少なく、自らの判断で行動するミニオン(マルザハールの大昔のヴォイドリング)は面白味に欠けていて、ほとんどのミニオンは強力なゾーンコントロール能力(ザイラの植物)を持つことになるので、何か代償となるものが必要でした。過去のミニオンたちはどれも対象指定が可能で体力が存在し、スキルショットをブロックしていました。過去のバランスの問題を避けるために、開発チームは異なるアプローチでデザインすることにしました――アジールの砂塵兵は対象指定されることはなく、自らの考えで行動することはありません。彼らの行動も位置取りも、アジールを使うプレイヤーが直接コントロールします。

出来上がったスキルセットは皆さんが愛する(またはその逆の)現在のものとほとんど同じでした。ただし、一つだけ大きな違いがありました――アジール自身が対象に通常攻撃をしなければ、砂塵兵は攻撃を行わなかったのです。プレイテストを一回行ったあとにColtは言いました。「これは悪くないし、やろうとしてることは理解できるけど、兵士に命令を出すだけで攻撃してくれる方がいいと思わない?」

「それが、『よし、このチャンピオンならいけるぞ』と思えた瞬間でした」とKleinは言います。

アジールをプレイする時、あなたは皇帝となります。あなたは自分の軍隊を持ち、あなたのあらゆる命令が――それが右クリックであっても――彼らを動かすのです。アジールは攻撃する必要はありません――方向を示すだけで、砂塵兵が敵を倒れるまで突き刺し続けます。


皇帝から得た教訓

アジールがここ数年でもっとも大きな問題を生んだチャンピオンの一人であることは間違いありません。リリース後は数ヶ月に渡ってバグの修正を行ったため、ただでさえ操作難易度の高いチャンピオンがほぼ操作不能に感じられました。アジールにバグが多かった理由の一つは、ライアット内の複数の開発チームが(アジールのチームを含み)、シュリーマイベント(英語ページ)に関連するものはすべて同時にリリースしようと決めていたからです。アジールのプログラミングは非常に複雑で、リリース当日になっても問題を抱えていました。しかし、彼のリリースはシュリーマイベントの中心であったため、結局リリースされることになりました。

それ以来、チャンピオン開発チームは厳しい締め切りを設けることは避けるようになりました。開発中は何が起こるかわかりませんし、十分に準備が整っていないチャンピオンはリリースしたくありません。

技術的な問題は別にしても、スキルセット自体に問題が存在していることから、アジールのバランス調整には常に苦戦してきました。「彼の操作がこんなに難しいものになるとは思っていなかったんです」とDanielは言います。ゲーム内で行う個々の入力やボタン操作は簡単に思えます。敵をクリックすればダメージを与えます。しかし、根本的なシステムを変更したことで――右クリックで(兵士ではなく)通常はあなたが通常攻撃をするようにしたことで、習熟難易度曲線がとんでもない急坂になってしまいました。彼の強みを活かすには非常に複雑な入力が必要でしたが、それを使いこなせる神わざプレイヤーが現れるのも時間の問題でした。すべての操作を完璧にこなせるプレイヤーが使えば強力すぎる一方で、それができなければまるで無力になってしまうという状態がしばらく続きました(そして現在、彼はすべてのランク帯で非力な存在です)。

アジールがOPだったあの頃。

アジールのスキルセットが独特なものになった理由の一つに、彼の開発が行われていた当時、競技シーンで使用されるチャンピオンのバラエティが非常に乏しかったことがあります。多くのチャンピオンの長所と短所が似通っていることが原因だと考えた開発者たちは、2014年に、本当に明確な違いを持ったチャンピオンを作ろうと計画しました。そして超個性的なチャンピオンを作ることには成功したのものの、そのために長期的なバランス問題を生んでしまったのです。「アジールの開発は、まずい目標を上手くこなし過ぎた典型例としていい教訓になりました。将来的には、「神ではない「定命の者」でもアジールを上手く使えるようにしたいと考えています。」とDanielは言います。

ORIGINSはチャンピオン開発の舞台裏を深い部分まで覗いて紹介する新シリーズです。シリーズについての意見や感想、そして開発秘話を一番読んでみたいチャンピオンは誰かなどを、下のコメント欄で教えてください!


1 month ago

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