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チャンピオン開発エピソード:ニーラ

「超高層ビルみたいな大きさの海蛇を討伐したい!」という、よくある女性的衝動。

Dev作者SMALL BABY PANDA
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ここ最近の新チャンピオンたちはなんというか…怖そうな印象が強いのではないでしょうか。

なにせ今年は"人を操る"ことに長けたケミテック長者のレナータ・グラスク、続いてヴォイドの女帝・母なるマンタベル=ヴェスという流れでしたから。

しかし、次の新チャンピオンはそんな流れを一気に変えていきます。「放たれし喜び」ニーラの登場です。

水の流れは切れ味抜群

ニーラの開発は「近接スカーミッシャーADC」というゲームプレイ案からスタートしています。その目標はボットレーナーに新しいゲーム体験を提供すること、そしてヤスオ/ヨネメインのプレイヤーが別のポジションを試したくなるようなチャンピオンを制作することでした。…ボットレーナー/サポートの皆さん、どうか抗議の声を上げる前にもう少し読み進めてみてください。

開発チームも険しい顔をしたアイオニアの剣士をもう一体作るのは避けたいと考えていました。そして、コンセプトアーティストのNancy “Riot Sojyoo” Kimもそれを踏まえた上でコンセプトに合う武器を探していき、やがて「ウルミ」…南アジア発祥のムチのようにしなやかな剣にたどり着きます。チャンピオンラインアップにおける南アジアの代表性を向上させたいと考えていた開発チームにとって、ウルミはうってつけの武器でした。というのも、開発チームはサミーラ、アクシャン、ゼリといったチャンピオンを開発した時と同じく、世界中のプレイヤーが"自分と同じだ"と思えるチャンピオンを見つけられるようにしたいと考えており、LoLには南アジアという土地に根ざした(特に女性)チャンピオンが不足していたのです。

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そんな中、ウルミという武器はニーラに求める人物的背景とゲームプレイ(近接戦闘)にこの上なくマッチしており、見た目も最高にクールでした。しかも示し合わせたかのように、LoLにはムチという武器が存在していませんでした。これまでも案が出たことはありましたが、リリースに至ったことはなかったのです。

「Nancyから受け取ったコンセプトの初稿には、伝統的なタルワール(曲刀)を構えた六本腕の人物案なんかもあったんですよ」プリンシパル ナラティブライターJared “Carnival Knights” Rosenは振り返ります。「でもウルミの案を初めて見た時…"ちょっと待った…ムチを使うチャンピオンっていなかったのか?"という衝撃が走りました。"1体くらいいるはずだ、ザイラ?いや、あれは植物だし…他には?"と考えてみたんですが結局存在しなかったんです」

「ムチ使いのチャンピオンを作るには絶好のタイミングだと思いました。南アジアを表現する意味でもウルミは抜群に良かったし、ゲームプレイ案にもピッタリでしたから」Riot Sojyooも補足します。

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しかしムチという武器をゲーム内でリアルに見せるのはかなりの難題でした。実際にウルミを振るっている姿を見たことがある人ならば言わずもがなですが、アニメーションであの強烈な"しなり"と流れるような動きを再現するのは至難の業なのです。

「プロジェクトの初期段階で検証の時間を取り、普段のツールだけで流れるようなムチの動きを再現しきれるのか調査しました」リードアニメーターのDrew “sandwichtown” Morganは話します。「物理演算ベースの制作手法で実現できないか色々試したのですが、最終的にはほぼ手付けアニメーションにして、技術的な手法を補佐的に使うことになりました」

ここでツールベースのアニメーションと手付けアニメーションの違いについて少しお話ししておきましょう。最近のゲームはたいていゲームエンジンのツールで物理演算とシミュレーションを活用して制作されるのですが、ニーラのムチには専用アニメーションを制作する必要がありました。これはsandwichtownがすべてのキーフレームを手動で打ち、モーションの全フレームを管理する必要がある、ということです。

「一番大変だったのは多数ある攻撃アニメーションのすべてが方向的に正しく見えるようにする部分でした。カメラの距離やゲーム内の状況が変わっても破綻しないようにする必要がありますからね」sandwichtownは説明します。

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ニーラの通常攻撃アニメーションをテストしているところ

おまけに、ニーラのムチは平凡なムチではありません。彼女のムチは二又に分かれた水の剣で、普段は腰につけた魔法の瓶に収まっているとんでもない代物です。それならば当然、目を引くビジュアルが必要になります。

「彼女のVFXで表現すべきは"単なる水"ではなく彼女の“喜び"です。それを表現したかったので、スキルのVFXには玉虫色/虹色を散りばめています」VFXアーティストのMegan “Fairy Flan” Bayonaは説明します。「外に漏れた"喜びの悪魔"の力を操って戦っている印象を出したかったんです」

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ニーラの水のムチは巨大波のような威力と鋭さを兼ね備えている

放たれし喜び

"喜びの悪魔"の力…?はい、そうなんです。ニーラは喜びの悪魔の力を使い、神話上の怪物や敵を打ち倒しています。彼女は叙事詩に歌われるような怪物退治の英雄として、日々自らの伝説を打ち立て続けているのです(編注:悪魔を除けばCarnival Knightsみたいなチャンピオンですね)。

ニーラは戦士ですが、その暮らしはさながら修行者。厳しい掟を守ることで太古の昔に封印された喜びの悪魔"オッシュレッシュ"の力を自分の力として行使します。

このオッシュレッシュは最古にして最強の悪魔"TheTen"(10体の悪魔)のひとりで、喜びの感情を極限まで昂ぶらせる力を持ち、闇を糧とし、錯乱や執念といった感情を反転させます。しかしニーラはそのオッシュレッシュの力を制御し、善行のために使っています。

もちろんニーラも最初から異次元の力を持っていたわけではありません。彼女にも普通の女の子として普通に暮らしていた時はありました。

「ある日ニーラは故郷から姿を消し、10年もの間行方知れずになっていました。しかし戻ってくるやいなや、半神、そして山よりも巨大なドラゴンなどを討伐し始めたんです。以来、本来倒せるはずのない存在と戦ってきたんですね」Carnival Knightsは説明します。

しかしオッシュレッシュの強大な力を使う代償は大きく、彼女はあらゆる記憶と記憶から抹消されることになりました。今は出生の記録すら残っていません。親交のあった者も、自分の家族ですら、もはや彼女のことを覚えていません。

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「戻ってきた彼女は英雄的な力を持つ屈強な"よそ者"であり、かつての読書好きの女の子ではありませんでした。過去を持たないニーラ。あとはここから未来を紡ぐのみ。喜びにすべてを奪われた、とも言えるでしょう」そう語るCarnival Knightsは、ニーラの底抜けにポジティブな側面も自発的なものではないと付け加えます。「オッシュレッシュはニーラから喜び以外の感情を消し去ってしまったんです。それ以外の感情が湧いていること、あるいは他の感情を感じたいと望む気持ちがあることを認識することはできるんですけどね。彼女はたくさんの悲しみや喪失を経験してきましたが、今はそれを前向きに捉えることしかできない。ニーラはそういう矛盾を抱えているんです」

しかしニーラは最高の人生を生きていると言えるでしょう…望むと望まざるとにかかわらず。

ラーマヤーナ(古代インドの叙事詩)の英雄と同じく、ニーラはすべてを犠牲にして得た強大な力を使い、世界を古の脅威から――長い間無敵と思われていた存在から――守ろうとしています」Carnival Knightsは説明します。

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「ニーラはとても敏捷なので、動きにくい要素を無くし、飛び跳ねたり曲芸をしたりできる軽量なデザインを目指しました」とRiot Sojyoo。アートチームは衣装をデザインする上で、禁欲的な戦士という個性と神話級の敵と戦う衣装としての実用性の両立を目指したと語ります。

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古き言い伝えではオッシュレッシュには7本の腕があり、冥界の第七層(セブンス・レイヤー)に閉じ込められているという

やがてルーンテラはニーラの伝説的な強さを目にすることとなりました。

「破滅」のあとニーラはカスカンを発ち、海を渡ってビルジウォーターに向かい、ヴィエゴや悪魔の情報を探しました。もっとも、ヴィエゴはすでに彼女の故郷がある大陸に幽閉されていたのですが。結局彼女はオイスター・ビルのオイスターバーに時折顔を出し、船着き場で海蛇が暴れていれば倒しに行くような暮らしをしています。

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"どこにいようとも常に善をなす"がニーラの主義であり、彼女はそうして人生という叙事詩を一層壮大なものにしていきます。オッシュレッシュを制御するための祈りを捧げ続けながら。

「ニーラは世界屈指の強さを持つ女性ですが、日夜問わずほとんどの時間を暗がりに座り込んだまま、本を読んだり祈りの言葉を暗唱したりして過ごしています。もちろん暗唱は悪魔を制御し続けるためのものです。そして時折立ち上がり、超高層ビルくらいの大きさの海蛇を討伐したりして、また暗がりに戻って腰を下ろすんです」Carnival Knightsは言います。「誰の指図も受けない、といった感じですね」

ショーの主役

ニーラは"古代の喜びの悪魔に憑依された怪物殺しの傑物"ですが、ゲームプレイ的にはハイパーキャリーでもあります。しかし彼女はひとりでキャリーするタイプではありません。彼女はセブンス・レイヤーへの誓い以外に、"チームメイトのポテンシャルを十全に発揮する"ことも誓っているのです。

彼女にも近接ボットレーナー特有の弱点(敵の"サポート"メイジのスキルがいちいち痛いなど)はありますが、味方が近くにいればその弱点も補えます。味方が近くにいる場合、ラストヒットを取る難易度が軽減する手段や、(CCを持たないながら)レーン戦をうまくこなす手段が用意されているのです。

たとえばニーラの固有スキルは自身への(あるいは近くの味方への)回復/シールドを増幅し、共有します。

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ヤスオメインの皆さん、味方にノックアップ持ちチャンピオンやエンチャンターをピックするよう懇願するのを止めるなら今ですよ

「何らかのシールドや回復手段を持つ味方と組めば、その味方の力を強化できるんです。しかも同時にニーラ自身の回復/シールド量も増幅できる。そこにはある種自分本位な側面もあるんです」シニアゲームデザイナーのBlake “Squad5” Smithは解説します。

また、ニーラの固有スキルには経験値ボーナスも付いており、"本人がラストヒットを取った時に限り"近くの味方と経験値を共有します。ということなのでザイラメインの皆さん、ミニオンの横取りはご遠慮くださいね。

「彼女の固有スキルは"私を支援してくれるなら、私が勝たせてあげる"という内容なんですよね」そう言ってSquad5は笑います。もちろんニーラは互助精神だけでなく、ショーの主役を張るだけの器量も備えています。「基本的にはどのチャンピオンもそうですが、彼女もまた"スポットライトを当てて"と強く主張します。なので彼女をプレイするには結構なプレッシャーがかかります。でもショーの主役がお好みなら、そして敵は全員ぶっ倒す!という気概をお持ちなら、彼女は最高のチャンピオンだと思いますよ」

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とはいえ、"敵は全員ぶっ倒す"部分はそう簡単にはいきません。ニーラはそもそもレーン戦で圧倒してスノーボールしていく種類のチャンピオンではないからです。

「開発中にはジャーヴァンⅣやパンテオンのレーンみたいにしないよう気をつけました。他にやることがないからひたすらキルを狙っていくようなゲームプレイは避けたかったので」Squad5は言います。「実際、ニーラのプレイ感はボットレーナーが普段やっているような立ち回りに近いと思います。堅実なファームとダメージ交換を重視するスタイルですね。他の近接ボットレーナーと違って、何度もオールインを仕掛けていくようなタイプではないんです」

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その他のスキルでは、"魔法の水でできた武器"の堂々たるきらめきを見ることができます。直線状の攻撃で敵を切り裂く、霧に身を包む、玉虫色の水を滑るように駆け抜ける、そして渦潮を生み出し敵を自らのもとへと引き寄せるULT。

「ムチで攻撃し、敵に向かってダッシュし、渦潮のULTで敵を引き寄せ、Qを当て、全員に通常攻撃を浴びせる、という感じです」Squad5は笑いながら語ります。「継続的に範囲ダメージを与える部分はとても強力だと思うので、集団戦で特に輝くチャンピオンになって欲しいなと思っています」

終盤の集団戦にニーラが飛び込めば、その時点で勝負あり。一瞬にして敵チームを崩壊させてくれるでしょう。あの笑顔で、笑い声を上げながら。



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