ピルトーヴァーは活気のある進歩的な都市であり、その力と影響力を徐々に増しつつある。また、ヴァロランの文化の中心地としても栄えており、芸術、工業、貿易、そして技術革新が互いに影響を及ぼしあっている。その影響力は軍事力ではなく、先見性と商才によって得られたものだ。ゾウン区域の上、海を見下ろす断崖に位置するこの都市からは、世界中から品物を運んでくる船団がその巨大な海門を通るのを見ることができる。この貿易によって生まれた富によって、都市は今空前の成長の最中にある。ピルトーヴァーは財産を成し、夢を叶えられる街として絶えず変革を続けてきた。新興財閥の数々はパトロンとなって贅を凝らした芸術を支援し、難解なヘクステック研究に投資し、その力を誇示するような壮麗な建築物を建てさせている。ヘクステックによる技術神話に心酔する発明家たちが増えるにつれ、ピルトーヴァーには世界中から一流の職人たちが引き寄せられてくるようになったのだ。
ゾウンは、ピルトーヴァーを縫うように走る深い峡谷の中にある、広大な地下都市地区だ。そこでは、複雑に入り組み腐食した配管から漏れる排気によって遮られた光が、薄明かりとなり工場街の曇った窓に鈍く反射している。かつて一つだったゾウンとピルトーヴァーは今では分断され、個別の社会を形成しているが、その関係は相互に依存している。晴れることのないスモッグの薄闇の中にあっても、ゾウンは活気のある都市であり、そこに住む人々は活力に満ちて、文化的に豊かな暮らしを送っている。ピルトーヴァーの富によって共に発展してきたゾウンは、まさに頭上の都市が落とす影といえるだろう。ピルトーヴァーにやってくる貿易品のうち、少なくない数がゾウンの闇市に流れ込む。頭上の都市の様々な規則を煩わしく思うヘクステックの発明家たちと、彼らの危険な研究は、ゾウンで歓迎されることが多い。ゾウンには、足枷の解かれた危険技術の開発と無謀ともいえる産業発展によって丸ごと汚染された危険な地域がいくつもあり、都市の下層部にはそこに流れ着いた毒性の排水が沈滞しているが、そんな場所ですら人々は生きながらえ、繁栄しているという。