/tech:ケインがパーティクルタウンにやってきた

Riot Jenglesによる

/techは、リーグ・オブ・レジェンドに使われているテクノロジーについて解説する、NEXUSの新シリーズです。今回の記事に興味を持たれた方はライアットゲームズ・エンジニアリングブログ(英語ページ)もご覧いただければ、さらに詳しい解説を読むことができます。



「大鎌」って農作業に使うアレじゃなくて?違います。ボットレーンのファームに使います。

リーグ・オブ・レジェンドのように規模が大きく頻繁にコンテンツをリリースするゲームにおいては、作業に支障をきたさずにゲーム開発ツールに大幅な変更を加えることは、困難極まるチャレンジと言えます。

皆さん、 こんにちは!ライアットで使われているアートツールの開発を担当しています、John “Riot Jengles” Englundです。今日は、ケインのリリースに間に合うように、新たなビジュアルエフェクト編集ツールをネジ込んだ経緯についてお話しします。ちなみに、ケインは壁の中を歩いて敵チャンピオンに乗り移ることができる最新のジャングルアサシンですが、個人的には好みではありません!私は機動性の低いADCをプレイするので、チャンピオン選択では「ケインは常にバン」という厳格なルールを適用しています…

名が体を表す開発チーム

私たちのチームの役割は、ツールや技術を開発し、ライアターたちがプレイヤーに最高の製品を提供できるようにお膳立てすることです(ここでいう「最高」とは、各チームのそれぞれの仕事において最高と定義されるものすべてを指します)。そのために私たちはソフトウェアを提供し、コンテンツ作成にともなう反復作業をできる限り効率化します。そんなわけで私たちの開発チームは、そのものずばり「コンテンツ能率化チーム」と呼ばれています。LoLのあらゆるゲームデータをホストするサーバー側のプラットフォーム(英語ページ)を管理することも、チャンピオン、スキン、スキルなどの内容を編集する際にデザイナーやアーティストが使うツールを開発することも、私たちの仕事です。

昨年末、私たちはビジュアルエフェクトの編集ツールを一新することに決ました。その理由は、以下にお話しするとおりです。LoLには11万種類のビジュアルエフェクトが使われています。これがゲーム内のアクションに命を吹き込む大きな役割を担っていて、ビジュアルエフェクトの良し悪しがチャンピオンやスキン、アイテム、マップエフェクトなどを楽しめるかどうかを左右していると、多くのプレイヤーが指摘しています。


ビジュアルエフェクトはキャラクターのアニメーションとは異なり、個々のポーズをつなぎ合わせて作るわけではありません。ビジュアルエフェクトは、プロシージャルアニメーション(自動生成)によるものであり、一定時間だけシュミレートされます。エフェクトはそれぞれ、1つまたは複数のパーティクルシステム――パーティクル(粒子)を発生させる仕組みの集まり――によって構成されています。ビジュアルエフェクトアーティストがテクスチャ、ジオメトリ、そしてたくさんのコントロールを使ってこのパーティクルの動作や見た目を定義します。ビジュアルエフェクトの技術的な内容についてもっと詳しく知りたい方は、ケインのビジュアルエフェクトを担当したアーティスト、RiotPhoenixによるこちらの記事(英語ページ)もご覧ください。ケインは新しいツールの開発とテストに大きく貢献しました!


高品質なビジュアルエフェクトはゲームに欠かせませんが、私たちのビジュアルエフェクト作成手法は、少しずつ時代遅れなものになりつつありました。たとえば“元に戻す”ボタンがないため、新たな変更を試すのも一苦労でした。アーティストがビジュアルエフェクトの結果を確認しようと思うと、毎回ゲームを実行したままにして、エフェクトを保存し、再読み込みされるまで待つ必要がありました。その場で確認する方法が存在しなかったのです。また、ビジュアルエフェクトのあらゆるデータが古いファイルシステムに保存されていたので、正しく機能させるにはフォルダやファイル名の管理のほとんどを手作業で行う必要があり、ゲーム内の特定のエフェクトに使われているファイルを簡単に追跡する方法もありませんでした。

アップグレードの実行ボタンはどこに?

より良いビジュアルエフェクトツールの開発も簡単ではありませんでしたが、意外にも、もっとも困難な部分はツールの開発自体ではありませんでした。厳しい締め切りが存在するプロダクション環境に新たなツールを投入し、古いデータを新システム向けに変換して、移行時のアーティストの負担を最小限に抑える――そういったプロセスにこそ、さらなる難しさがあったのです。

まず最初にやらなければいけなかったことは、ビジュアルエフェクトアーティストたちからこのプロジェクトへの理解と賛同を得て、開発プロセスに参加してもらうことでした。彼らの専門知識がなければ、適切なツールを作り上げることは望めません。ただ、彼らは現行のビジュアルエフェクトツールに慣れていてそれなりに満足しているので(多少欠点があったとしても)、彼らが受け入れてくれるものを提供しようと思えば当然ハードルも高くなります。

さらに悪いことに、このツールには“味なロード画面”が採用されていました。

古いツールは「シロップ」と呼ばれていました。そしてご覧の通り、朝食のタコスの上にタコスのキャラクターが立っています。


どうすれば現行のツールを超えられるのか?まずは、かっこいいグラフや気のきいたテーブル、巧みな単純化などで今あるインターフェイスを改善する方法を色々考るところから始めてみましたが、結局のところ、古いツールの作業工程が抱える問題はインターフェイス自体とはほとんど関係がありませんでした。そこでまずは、古いツールにあった機能の多くを新システムに単純に移行することにしました。インターフェイスの変更は、それがどんなに優れた改善につながるとしても、ツールを学習し直す必要などが出てくるため、一時的には作業効率が下がります。そこで移行の負担を軽減するために、インターフェイスについては現行とほとんど変わらないものを提供することにしました。

シロップとパーティクルタウンの比較。ほとんど同じですが、少しだけ整理されていて、新しいビューアーが付いています!“元に戻す”ボタンもありますよ!

私たちはビジュアルエフェクトアーティストと古いデータの両方が円滑に新ツールに移行できるようにするために、開発作業の少なからぬ時間を割きました。シロップを参考に見慣れたインターフェイスを構築しただけでなく、ビジュアルエフェクトを構成するテクスチャ、メッシュ、パーティクルシステムなどの古いデータを、新しいシステム向けに変換するツールも作成しました。さらに、古いツールから新しいツールへアーティストが各自でデータをコピペできるようにもしました。

新しいツールの出来は上々で、アーティストたちがこのツールを使いこなせるようになることも明らかでした。さあ、次はどうやって実際の作業に投入して稼働させるか、です。

ケインさん、パーティクルタウンへようこそ!

私たちは実際のビジュアルエフェクトのデータを見つけてきて、“パーティクルタウン”と名付けたこの新しいツールに放り込む必要がありました。このデータにはそれなりのボリュームがあり、データ変換のテストが行えるように、ある程度は開発が進んでいるものでなければいけませんが、制作の締め切りに影響を与える可能性を考慮し、あまり開発が進み過ぎていてもいけません。

チャンピオン開発チームに聞いてみたところ、まさにうってつけのチャンピオン――三種類の異なる形態があり、ド派手なビジュアルエフェクトが使用されているチャンピオンが見つかりました。

そう、無情の影、ケインの登場です。


フルスクリーンサイズのビジュアルエフェクトがお好みだと聞きましたので

チャンピオン開発チームには彼ら独自の締め切りがあり、このツールが直ちに作業スピードを向上させるとは約束したくありませんでした。実際のところ、変更に慣れるまでの間は作業スピードが少し低下することが見込まれました。時間が経てばこのツールの方が作業能率が上がると確信していましたが、現実的な予測を立てたうえで、全力をあげて協力し、なんとしても期日までにケインをリリースする必要がありました。

それで、具体的には何をしたか?私たちはMinimum Viable Product(最小存続可能製品)――つまりツールとして運用できる最小限のツールの開発に3ヶ月という時間をつぎ込み、チーム全員がその開発に集中しました。自分たちのやっていることが間違っていないかどうかを確認するために、ビジュアルエフェクトアーティストたちと何度も話し合いました。かっこいいグラフエディターなど、いくつかの機能は開発規模を縮小することになりましたが、これはデザインに問題があったからではなく、他に優先すべき事柄が見つかったからでした。まずはシンプルなものをリリースしておいて、あとから磨きをかけることは可能です。短期間で開発できる最小限のものを先にリリースしておけば、すぐにフィードバックを得られるという利点もあります。専門家たちから直接ユーザーフィードバックを得られることは将来の開発にとって大きな価値があり、大して使われない機能を先に構築して時間を無駄にしてしまう事態も避けられます。


ケインの大鎌の不吉な輝き。パーティクルタウンからライブでお届けします

そしてとうとう、3月の終わりにツールをリリースすることができましたが…もちろん、順風満帆とはいきませんでした!データが破損してツールの実行速度が非常に遅くなり、クラッシュすることもありました。この移行期間中は、アーティストたちと密にコミュニケーションをとり、私たちがいつでもサポートに駆け付けられる体制が不可欠でした。彼らから受け取ったフィードバックはおよそ100ページにもおよび、150以上のバグ報告と追加機能の要請がありました。そしてこの追加機能の要請のためにアーティストが時間を取られたにもかかわらず、責任を問われることもありませんでした!私たちは矢継ぎ早に不具合を修正していき、1日で10回以上も修正を行うこともありました。

幸い、それほど時間をおかずに事態は落ち着いてきて、努力の成果があらわれてきました。アーティストから「元に戻す」機能によって数時間におよぶ作業内容を回復できたという報告がありましたし、新しいビューアーとゲーム内に、即座に変更が反映されて確認できるのは素晴らしいという報告も受けました。何よりも嬉しかったのは、古いツールよりも効率的にケインを開発できる方法をアーティストたちが見つけてくれたことでした!


左はケインのRの方向に応じて変わるエフェクトを対象を動かしてテストしています。右はそのスキルの全エフェクト

その例の一つがケインのアルティメットスキルです。これは全方向に使用可能なので、ビジュアルの品質チェックも全方向で行う必要があります。以前なら、アーティストはゲームを読み込んでから対象を選択してRを使用し、次に対象を動かしてもう一度Rを使用し…これを何度も繰り返して全方向から確認する必要がありました。新しいツールにはプレビューウィンドウがあるので、対象を動かすだけで全方向の実際の動きをその場で確認できます。


血がなくてもQの迫力は変わりません

他に興味深い例は、ケインのQの命中時エフェクトです。各地域(サーバー)の必要に応じて、Qは出血表現があるものとないものの2つのバージョンをリリースする必要がありました。通常なら、ビジュアルエフェクトアーティストがゲームを読み込んでエフェクトを確認する必要がありますが、新しいツールならプレビューウィンドウで“表現規制モード”に切り替えるだけで済みます。

お近くのパーティクルタウンにやってきます


“やめろ。絶対にやめろ” - ジン

私たちが学んだことは何でしょうか?忙しい制作スケジュールの合間を縫ってこのような複雑なツールをリリースするのは大変です。しかし、それは初めから分かっていたことでした。私たちが学んだことは、ツールの導入が上手くなってきているということでした。以前にも導入時に苦労した経験はありますが、今回上手くやれた理由は、影響を受ける全員(アーティスト、開発者、プロデューサー)に作業に参加してもらったことでした。おそらく、ツールの構築に費やしたのと同じくらいの時間を、コミュニケーション、目標設定、同僚たちの意見のヒアリングに費やしたと思います。まだすべてが完了したわけではありませんが、このプロセス全体が、今後もアート作成のワークフローに大胆な変更を加えていくための自信につながり、皆さんに最高のコンテンツを提供し続けられるようにと願っています。

それに…エフェクトの作成が容易になれば、今後はもっとふんだんにビジュアルエフェクトを使えるようになるかもしれません!どこにビジュアルエフェクトを追加して欲しいですか?皆さんのご意見をお待ちしています!


2 years ago


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