ポンコツライター、レーンを駆ける。

エラキスによる

 昔からひとりで淡々と遊ぶゲームが好きだ。
 モンハンもマイクラも、はるか昔を振り返るならマリオもぷよぷよもワイワイワールドも、ひとりでやるのが好きだったように思う。ひとりで遊ぶゲームなら、なんの用事もない休日に太陽が昇って沈むまで、ひと言も発することなくやっていられる。ひとと競ったり戦ったりするゲームをやりこんだ経験は、いまだかつてない。
 リーグ・オブ・レジェンドをプレイすることになったのは仕事上の成り行きだった。やってみたい! と思って始めたことではない。まっさらだった。自分で言うのもなんだけど、完全に無垢な状態から始めたLoLである。
 LoLはオンラインゲーム界で一番プレイ人口が多く、世界中で数千万人がプレイしているらしい。それだけにはとどまらず、プロプレイヤーが多額の賞金をかけて大会を繰り広げているという。
 ゲームで対戦するという意識が希薄な私が、果たしてそんな大掛かりな対戦ゲームを楽しむことができるだろうか。

 さっそくチュートリアルをプレイして、まず疑問に感じたのがマップの真ん中に横たわる森だった。
 ここはなんぞ?
 チュートリアル進行中のサブクエストで「ジャングルに入ってマークウルフを倒す」という指示がある。レーンに必死だった私は毎回これを無視していた。無視してもゲームクリアに支障はないようだったので、ジャングルに足を踏み入れさえしなかった。
 正直びびっていたのだ。進軍するための道は、ドロシーが辿る黄色いレンガの道よろしく、まっすぐ敵の本拠地へと伸びている。三本あるレーンのいずれかを進めばいいだけと思いきや、ジャングルに入る不穏で薄暗い小道はいたるところに散見された。ゲームを始めたてで勝手が分からない私を、獲って食おうと手招きするように。
 なんでもそこには中立モンスターがたくさんいて、それらを倒すことでチャンピオン(操作するキャラクター)が強化されるということだった。
 なるほど。つまり、レーンを進軍する上でうろちょろと邪魔をするミニオン兵(ちっちゃい雑魚。可愛い)とともに、倒すと経験値やゴールドやなんらかの特典をもらえる雑魚モンスター的なものがいるわけだ。それはぜひお目にかかってみたい。あわよくば倒して、どんな特典がもらえるのか確かめてみよう。
 AI戦に突入してさっそく、レーンを外れてみることにした。BOTレーンへと走りこみ、途中からジャングルの中央を横切る川へと踏み込む。入り組んだ先に行って迷うのも嫌だったので、すぐ左手にある窪地のようなところを覗き込んだ。
 そこからは、いわゆる瞬殺というやつだった。
 そこにいたのはマークウルフではなく巨大なドラゴンで、優にチャンピオンの三倍はあるであろうデカさにギョッとさせられたのもつかの間、反則級に強い炎のブレスであっという間に焼き殺されてしまったのだ。
 ……マークウルフは……? それよりもあのドラゴンの一体どこが雑魚なんだ! 下手するとAI操作の敵チャンピオンよりずっと強いぞ!?
 自分の勘違いと早とちりを棚に上げて憤慨する。その時の私は、中立モンスターはたくさん種類がいて、それぞれが決まった場所に陣取っていることさえ知らなかった。
 何はともあれ、さすがにマッチ開始直後のレベル1体力で挑んだのが間違いだったと反省し、次はいくらか体力を増やしてスキルを揃えてから、リベンジを果すべくドラゴンに挑戦してみた。しかしやっぱり強い。ドラゴン超強い。のちに調べたところ、ドラゴンは中立モンスターの中でも1,2を争う強さを持ち、みんなで協力しないと倒すのは難しいと、公式にアナウンスがしてあった。ようやくチャンピオンをまともに操作できるようになり、そこそこタイミングよくスキルを発動させられるようになったばかりの私が単身立ち向かうというのは、まだまだ早かったようだ。ようやく倒した時には、ドラゴンに挑んでから7分以上が経過していた。もちろんその間にかわいそうな私のチャンピオンは無事ではすまず、4回ほどベース送りにされた。
 これはメインの敵じゃないんだよな? 本来の目的を達成するためのサブタスクのひとつなんだよな? それにしてはずいぶんハードじゃないか?
 メインの敵はチャンピオンであり、破壊すべきは敵の本拠地にあるネクサスだ。ただでさえなかなか敵チャンピオンのキルを取れなくて右往左往しているのに、一体どうしたらドラゴンや他の中立モンスターを倒す余裕があるというのだろう。
 ドラゴンを相手にモタモタしているうちに、BOTレーンの敵タワーは放置してしまっていたし、それどころか敵チャンピオン(AI操作)は、私が防衛するべきタワーをもりもり攻撃していた。
 ここで私は中立モンスターの攻略をあっさりとあきらめた。ともかくタワーの防衛と、敵の本拠地への進軍を優先しようと思ったからだ。
 中立モンスターのことを忘れてレーンに集中するようになってからは、試合は淡々と進んだ。ゲームに慣れるべく、AI戦をひたすら繰り返す。

 そのうち、オフィスの先輩プレイヤーに連れられて、別のマップに出かけることになった。ハウリングアビスだ。対戦相手が人間というのはそれがはじめてで、使い慣れたチャンピオンをピックすることもできて、これはもう、初のランダムミッドを華々しく飾るしかないだろう、と、鼻息荒く目論んでいた。
 経験者諸氏はお察しのとおりだろうが、当然、物事はそんなに簡単には進まなかった。
 私は隠れ場所のほとんどないアビスステージをおろおろと走り回り、これでもかというほどデス数を稼いで、敵のチャンピオンを育てることに惜しみなく貢献した。当時のマッチ二回分のスコアをサルベージしてみたが、一戦目0/11/0、二戦目0/17/0という、惨憺たる結果だった。よくも周りは笑って許してくれたものだと思う。
 後々、先輩プレイヤーに教えられて気づくのだが、AI戦は対人戦の練習になり得ない。対人戦でうまく立ち回るには対人戦の数をこなすしかないらしいのだ。それは理解できたが、コミュ力というものが万年不足している私は、ここまでの戦績も相まって、ひとりで対人戦のマッチメイキングなど恐ろしくてできる気がしなかった。
 しかし当然だが、上手くなりたい。せめて対人戦で1キルを取れるようになりたい。ジャングルの件といい、アビスでの結果といい、散々だ。いかな世界一のプレイ人口を誇るオンラインゲームであろうと、下手なままでは面白くない。面白くないゲームなんて嫌だ。しかも自分のせいで面白くないなんてあんまりだ。
 そう思いながらも、単身対人戦に飛び込む勇気はなく、AI戦で勝利してはささやか満足を得ていた。

 AI戦は楽しく遊べるし、コツコツ繰り返せばサモナーレベルは上がっていく。しかしハウリングアビスでの私の立ち回りは相変わらずのポンコツぶりだった。勝敗に関わらず先輩方は笑って許してくれたが、お荷物になるのはもうたくさんだった。できれば同じ程度のレベルのひとと励ましあい、気兼ねしない相手からアドバイスをもらいたいと考えるようになったのは必然と言えるだろう。
 公式サイトのボードを見るようになったのは、プレイを始めて二週間ほど経った頃だ。
 バグ報告やプレイ向上のためのディスカッションに混じって、タグ分けされた初心者向けのスレッドも見つかった。日本サーバーで始めたばかりの人だけでなく、オンラインゲームの経験自体が少ないという人も僅かながらいるようで、心底安心した。LoLプレイヤーがみんな卓越したRTSの技術を持っており、ゲームに参戦するからにははじめから一定の技術水準を満たしていないといけなかったのでは、と思い込むぐらいには切羽詰っていたのだ。
 ルーンを買うタイミングや、チャットを利用するメリットについてなど、スレッドを端から読んでいく。会話の雰囲気は和やかで意欲に富み、私と同様知識とともにフレンドやクラブ参加を求める人が大勢いた。
 これはもうクラブに参加してみるしかない。
 初心者歓迎のクラブ募集を探し、そのうちのひとつにさっそく応募してみる。オーナーからの反応は驚くほど早く、その日のうちに私は初心者プレイヤーの集まるクラブの一員となった。
 グループのメンバーに迷惑はかけないようにしたいが如何せん芯から素人である旨を告げると、オーナーは気にすることはないと請け負い、まずは下手でもいいから実際にカスタムゲームをしてみようと誘ってくれた。
 この申し出は嬉しかった。アビスに連れ出してくれたオフィスの先輩プレイヤー達を(まことに勝手な認識だが)家族とするなら、自分で飛び込んで知り合ったクラブのメンバー達はまさにフレンド、友達といったところだろうか。
 家族に言えないことでも、友達には言えるものだ。ともかくはじめから終わりまで役に立てずにゲームが終わってしまうと相談し、チャットでオーナーやチームメイトが指示するままに立ち回ってみた。まず教わったのはできるだけ早くチャンピオンのレベルを上げることで、そのためにミニオンを相手にLHを取ることにこだわれというものだった。言われてみればたしかに私のCSは非常に低い。意識してミニオンを相手にするようになると、それだけでスキルを獲得する速度はずいぶん上がり、アイテムのビルドも思うようになって、レーン戦はかなり快適になった。そのことを伝えると、一緒に試合をしたチームメイトはとても喜んでくれた。
 およそゲームそのものとはかけ離れているが、そこでのコミュニケーションによって、私はようやく本当にLoLを楽しむ余裕ができたような気がする。公式が、同じレベルのフレンドをたくさん作ろうとアナウンスしている意味がよく分かった。低いレベル帯からでも同士とともに学びともに遊んで上手くなっていくことが、このゲームの醍醐味なのだろう。そうでなければ先に上手くなったプレイヤー達の独壇場になってしまう。ひとりでは楽しむには限界があり、レベルが極端に離れているプレイヤー達との試合には気兼ねがあるし、そもそもゲームにならないのだ。
 現実世界と同じだ。ひとりで悪戦苦闘するくらいなら、誰かと話し合って解決すればいい。できないことはできないのだから、できないのに無理をして自分を貶める必要はどこにもない。できることをひとつずつ増やせばいいのだ。できることが増えれば楽しくなるし、世界は明るい。
 いい年をした大人でありながら、私はちょっとした人生の示唆を得た気分である。

 LoLはチームゲームだ。チャンピオンごとに役割があり、それぞれが機能的に働く場所や条件が綿密に計算されてデザインされている。好きなチャンピオンでテキトーなレーンをオラオラすればいいわけではない(何を隠そう、そのことを知ったのも最近である)。ということは5通りの役割を覚える楽しみがあり、その中にはあんまり向いていない役割もあるかもしれない。そして同様に、その役割を担ったら右に出る者はいなくなるほど、自分に向いている役割とチャンピオンがいるかもしれないのだ。なにせチャンピオンはたくさんいる。数えるのが嫌になるほどいるのだから。
 ちょっと、だいぶ、いやかなり、ワクワクしてしまう。

 私は目下、スマートでクールでファンキーなADCを目指してプレイ中である(フォーチュン最高)。また、自分と同じようにスマートでクールでファンキーなADCプレイをしたいと思うプレイヤーのために、サポートの練習もしてみている。これがまた楽しい。いつかジャングラーを買って出て、因縁のドラゴンに合間見える時もあるかもしれない。リリースされたばかりのオレリオン・ソルを使ってみたい欲ももちろんある。

 LoLプレイヤーとしての自分が今後どういった成長を遂げるのか、そしてLoLというゲームを通してどんな面白い発見をしていけるのか、ポンコツライターは楽しんでいきたいと思う。
 


2 years ago